弁護士を付けないで裁判を起こす、起こされた時に参考になる本をレビューします。
今回紹介するのは、自由国民社から出版されている「自力で勝ち取る 訴訟は本人で出来る(第4版)」です。この本は、複数の弁護士が執筆しています。
良いところ
この本の良いところは、民事裁判の基礎的な内容が素人にも分かりやすく説明されている事だと思います。たとえば、「請求」と「主張」と「立証」の関係は、処分権主義や弁論主義など、難しいことを説明するときりがありませんが、このような民事裁判の雰囲気のおおもとになっている考え方が、比較的ラフな表現で説明されています。とくに、裁判官や書記官との付き合い方や、裁判でやってはいけないことがズバリ書かれているのは、良い点です。
弁護士として、まれに本人訴訟の相手方になる時がありますが、本人訴訟で裁判をすすめている方の中には、裁判所との付き合い方がまずい人とうまい人がいるのは事実です。裁判所での立ち振る舞いを間違わないように、知っておくと良いことが、この本には書かれています。
悪いところ
この本の悪い点は、実際の紛争類型ごとの詳しい説明はないということです。たとえば、賃貸借契約の問題、労働問題、離婚問題など、紛争類型ごとには、典型的なケースに関する説明がされているだけなので、個別事案の請求の趣旨の書き方、請求原因の書き方は、わからない場合が多いと思います。
もっとも、本人訴訟向けに訴訟手続全般を解説した書籍で、個別類型ごとの解説も十分になされているものは無いと思います。個別類型ごとの解説は、むしろ、その分野の解説書を探すほうが良いです。
この本は、基本的に、実践的な書式をそのまま使える形で解説するものではありません。裁判の極意的なものや心構え的なものを解説したものなのですが、具体的な事例に沿っていないこともあって、裁判そのもののイメージが全くない方が読んだ場合に、著者の伝えたいことがどれだけ伝わるものなのかというのは、少し疑問に思いました。
ピンポイントで使える情報を検索して利用するというタイプのものでもありません。一冊まるっと、あるいは章ごとに通しで読むことで、裁判の雰囲気が分かるというものだと思います。なので、落ち着いて通して読むことができないと、ちょっと使いにくいかもしれません。
本書の構成
第1章 訴える時の心構え
第2章 訴訟の実際と手続・準備編
第3章 訴訟の実際と手続・進行編
第4章 いろいろな場合の訴訟の仕方
第5章 訴訟以外の手続
第6章 強制執行の手続
この本でおすすめなのは、第1章から3章までの解説です。
裁判の流儀のようなものが分かりやすく書かれています。本人訴訟マニュアル的なものとしては、どうしても、そのまま使える書式集のようなものを希望する方が多いと思いますが、そういうものではありません。
手続の説明については、網羅的ではありません。しかし、これは、かえって良いとおもいます。民事訴訟法のテキストというのは、法学部生でも退屈で「眠素」と揶揄されています。民事訴訟法を、学問的な体系に沿って、知識として理解できたとしても、裁判の実務の感覚は分かりません。
前述のとおり、この本は、貸金問題、売買契約の問題、など紛争類型ごとに詳しい解説があるわけではありません。第4章に、類型別に訴状の記載例などがありますが、この本に、あなたの抱えている問題にそのまま使える書式がある可能性は低いです。
第5章には、訴訟以外の公正証書の作成や、支払督促等の手続きの解説、第6章には、強制執行の手続についても、解説があります。しかし、この書籍の解説だけで、支払督促を申し立てたり、強制執行を申し立てるのは、難しいと思います。どのような手続きなのか簡単に理解するのには良いかもしれません。
こんにちは、はじめまして
本のレビュー拝見しました
質問なのですが、各紛争類型ごとの解説書でオススメのものはありますか?
特に詐欺被害などに遭ったときの損害賠償請求訴訟についての解説書があれば教えていただきたいです
よろしくお願いします
詐欺被害といっても、色々とありますね。
具体的な事例を説明していただければ、記事に反映しますので、コメントでお寄せくださいね。
非公開の方がよろしければ、そのように書いておいてください。
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