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敷金返還請求訴訟

キッチン、ユニットバスの原状回復に関する裁判例

投稿日:8月 14, 2020 更新日:

(1)
ユニットバスの汚損について、賃借人の一部負担が認められた事例
キッチンについて、賃借人に負担が認められなかった事例

裁判年月日 平成29年 3月30日 裁判所名 東京地裁

裁判所は、ユニットバスの汚損状況について、以下のような認定をしました。

本件貸室のユニットバスは,カビや腐食が見られ,亀裂が入り,漏水の恐れがあるという状況であり,便器や洗面台もカビによる汚れが激しく,通常の清掃では対応できないものであった。

裁判所は、これが通常損耗を超えるものであると判断した上で、次のように、賃借人の負担額を判断しました。

本件建物が築28年以上が経過したものであり,少なくとも賃借人が本件貸室を使用して以降(18年),設備が交換等されたことはないことからすれば,相当な価値の減損があったものといえ,損害の算定にあたっては,上記工事費用から価値の減損分を控除して算定すべきものといえる。
どの程度価格を控除するか検討すると,通常の使用方法では使用が困難となるほどの損傷が生じることが少ないといえることに加え,本件建物の他の部屋については,現在においても使用可能であることを考慮すると,なお70%の残存価値を有している。

同じ、判決の中で、裁判所は、キッチンについては、通常損耗の範囲内であるとして、賃借人の負担と認めませんでした。具体的には、次のように判断しました。

ミニキッチンのその他の設備及び排水管について検討すると,確かに,カビ等により汚損されているとは認められるものの,これらの汚損は,ユニットバスと異なり,通常の使用に耐えられない程度とまではいえないため,被告が本件貸室を使用する以前にも同様の状態であった可能性も否定できないことに加え,本件貸室が建築されてから30年近くが経過しており,また,前記認定の被告のガス及び水道の使用状況によれば,同人が長期間これらの設備を使用していなかったとも直ちに認められないことからしても,上記の汚損やひび割れが通常の使用を超えた使用又は不使用により生じたとは認められない。

なお、キッチンとユニットバスでは、耐用年数が異なります。

キッチンは、流し台が5年、ガスコンロが6年とされているのに対し、ユニットバスについては、建物の耐用年数に準ずるものとされています。キッチンについては、それなりの汚損が認められる状況ではありましたが、耐用年数の短さと、本物件の使用期間の長さ(18年)から、賃借人の負担を認めなかったのではないでしょうか。

(2)
流し台について、耐用年数を経過している場合にも賃借人に一部の負担を認めた事例

裁判年月日 平成28年12月20日 裁判所名 東京地裁

ガイドラインは、流し台の耐用年数を5年としていますが、裁判所は、5年以上経過している設備について、交換費用の3分の1程度を賃借人の負担としました。

裁判所の判断は次のとおりです。

本件物件に取り付けられていた流し台は廃盤になっており,引出しのみを交換することは不可能であったと認められるところ,上記(1)のような状態で本件物件を明け渡された賃貸人としては,本件物件を新たな賃借人に賃借するために流し台の交換を実施せざるを得なかったということができる。流し台の交換には,少なくとも4万7000円程度の費用がかかることが認められ,同交換によって,賃借人が善管注意義務を尽くしていた場合よりも流し台が良い状態になり得ることを考慮しても,上記費用のうち1万5000円(税抜)を原状回復義務の不履行に基づく原状回復費用として認める。

(3)
浴室のドアの破損について築年数や交換品によるグレードアップを考慮して賃借人の負担額を決定した事例

裁判年月日 平成28年 9月 1日 裁判所名 東京地裁

ガイドラインにおいて、ユニットバスの耐用年数は、建物の耐用年数によるものとされていますが、浴室の扉について破損があった事例について、築後の年数や交換品によるグレードアップを考慮して、裁判所は以下のように賃借人の負担額を定めました。

本件建物の浴室の開き戸のパネル部分に、縦方向に30cmを超える長さの亀裂が生じていた。賃貸人は、本件浴室扉を折れ戸に交換する材料費及び工事費として6万8000円に消費税8%を加えた7万3440円をを支払った。
このような亀裂が生じた原因について、賃借人は、閉まりにくくなっていた本件浴室扉を閉めようとした際に生じたとする。上記亀裂は、その形状等に照らせば、扉のパネル部分に対して一定以上の力が加わったために生じたものであると推認されるのであり、通常の使用により生じるものではなく、賃借人の故意又は過失による損耗であると認めるのが相当である。
もっとも、賃貸人が主張する交換費用の額は、元々片開き戸であった本件浴室扉を折れ戸に変更するために要する費用であることに加えて、本件建物は築後約20年を経過していることも考え併せれば、賃借人が生じさせた損耗に対する原状回復費用としては過大というべきである。賃借人は、同程度の扉はインターネットで調べると1万円台で手に入る旨主張しているところ、これに沿った証拠は提出されていないものの、片開き戸の扉を調達するのに要する費用は折れ戸に比して安価であることは容易に推認されること、そうであるにもかかわらず、賃貸人が同程度の浴室扉の入手代金について具体的な反論や立証を行わないことなどに照らせば、扉の取り付け工事には費用を要することを考慮しても、同費用を含めても、上記損耗に対して賃借人が負うべき原状回復費用は、消費税分を含め、せいぜい2万1600円である。

その他の補修部位別の裁判例
 (1)ハウスクリーニング特約
 (2)壁、クロス
 (3)床、フローリング、クッションフロア、畳
 (4)建具、ドア、襖、窓など
 (5)キッチン、ユニットバス

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