貸したはずのお金なのに、貰ったものだとか、出資だとか、債務の返済だったなどと反論されることが時々あります。こうした場合、たいてい借用書などの証拠がないこともあります。
借用書があっても、実態は、事業への投資(出資)だったといって、事業がうまくいっていないから、元本の償還義務はないといった主張がなされる場合もあります。
返還合意は、原告に立証責任がある
このようなケースを「返還合意が争点だ」等といったりしますが、貸金返還請求訴訟の原告は、請求原因として、金銭を貸付けたことを立証する責任があり、お金を交付したことだけでなく、それが貸金であったことの立証をしなければいけません。
立証のポイントは
このような争われ方をするのは、気持ちのいいものではありませんが、冷静に反論しましょう。感情論ではなく、事情や状況証拠を具体的に主張しなければいけません。借用書などの証拠があれば、基本的には問題がないはずです。
立証のポイント
まずは、借用書や契約書などの書類があるかどうか。
感情論は控え、事情や状況証拠を具体的に主張する。
逆に言うと、証拠がない場合、メールや手紙のやりとりなどの証拠から証明できないと、裁判としては五分五分の長期戦になってしまうことがあります。被告側から、ほかの名目の支払であったことを推測させるような証拠が出てきてしまうと、敗訴のリスクはさらに高まります。
このような場合、心情的な主張は控えて、貸金だったのかどうかに直接関係する状況証拠を具体的に主張立証しましょう。
たとえば、当事者の関係性、貸付の理由、資金使途、経済状態などを当時のメールなどの証拠を添えて主張しましょう。証拠がなくても、具体的に主張をすることが重要です。最終的には、あなた自身の「証言」が証拠となります。そのとき、常識や経験則から”しっくり”くる方の主張が認められるので、感情論ではなく、具体的な事実を主張しなければいけません。
状況証拠の例
当事者の関係性
→ お金を贈与するような関係性(家族や恋人)の有無
貸付の理由や資金使途
→ 被告がお金に困っていた具体的な理由
他の支払名目
→ ほかにお金を払う理由は全くないこと
裁判提起前に一筆もらったり、録音する
このような反論は、裁判になっていきなり出てくることがあります。
我々弁護士としても、証拠のない事件の受任を躊躇するのは、このような反論がいろいろと想定され、争われ方によっては、事件が長期化し、敗訴のリスクがあるだけでなく、依頼者にとって精神的に負担となることが想像できてしまうからです。
したがって、借用書などがない場合、裁判を仕掛ける前に、一筆書いて貰う努力が必要です。きっちりした借用書や金銭消費貸借契約書である必要はありません。メモ帳の切れ端に、一筆書いて貰うだけでも、ないよりはずっとましです。
借用証書には、実印の捺印、印鑑証明書の提出が非常に効果的です。これは、署名捺印が偽造であるといって反論をほぼ遮断できるからです。実印でない捺印は、争われると非常に弱い場合があります。
借用書の形式よりも、本人の意思表示であることの裏付けがより重要です。
自分の署名ではない。このような争われ方に備えて、口頭で借りたことを認めさせたり、これを録音しておくと、貸金であったことの立証として非常に強力です。