貸金訴訟を提起された被告としては、どのような反論をすることが考えられるか。その法律根拠と、主張立証のポイントを解説します。
一般論として、貸金の請求に対する抗弁としては、以下のようなものが成り立ちます。
【貸金請求に対する抗弁の例】
1 弁済
2 相殺
3 免除
4 消滅時効
実務的には、このような抗弁以外にも、そもそも貸したお金だったのかどうかが問題となることもあります。借りたのではなく、貰ったものだとか、出資を受けたものだなどという主張です。
※ 抗弁と否認
被告の反論は、その内容によって、抗弁と否認に区別されます。抗弁とは、被告が立証責任を負う主張となり、否認は、原告が立証責任を負う主張を争うというものです。「借りた金ではない」という被告の反論は、金銭を貸付けたという請求原因を争う主張ですので、抗弁ではなく、請求原因の否認となります。
弁済の抗弁
請求されている貸金をすでに弁済したという反論です。
実務的には、利息や他の債務の支払いがある場合に、その充当の関係を整理する必要が生じる場合があります。
領収書や振込記録などが証拠となりますが、実務的には、領収書だけでなく、振込の記録によって、客観的にお金の動きが証明できるほど、立証としては有効です。
相殺の抗弁
相殺の抗弁とは、被告が原告に逆に債権を持っているので、帳消しにした(帳消しにする)という主張です。
相殺の抗弁に対しては、そもそもそのような債権を持っているのかどうか、債権があるとしても、弁済済みであるといった点が問題になります。したがって、相殺の抗弁を主張する時には、その債権の存在を証明する必要があります。
自働債権と受働債権
相殺を主張する被告が原告に持っている債権を自働債権、その逆を受働債権といいます。
相殺適状とは
相殺には、いくつかの要件があります。自動債権が存在するからといって、いつでも認められるものではありません。
自働債権と受働債権が、相殺可能な状態にあることを、「相殺適状」といいます。
相殺適状とは、簡単にいうと、自働債権が弁済期にあるなど、請求が可能な状態であることです。
相殺が禁止される場合
相殺が禁止される場合もあります。給与債権や不法行為による損害賠償債権は、現実の支払が保証されるべきであるという趣旨で、相殺が禁止されています(労働基準法17条、民法509条)。
たとえば、給与の支払いを求める訴訟に対して、原告が貸金があると主張して相殺することは、たとえ貸金の存在が証明されたとしても、認められていません。
ただし、給与債権や損害賠償債権を自働債権として主張することは許されています。これらの債権の相殺が禁止されているのは、現実の支払を保証するためですので、債権者自身が相殺を主張する場合には、相殺を禁止する必要がないからです。
相殺の主張記載例
以下は、被告が損害賠償請求権との相殺を主張する場合です。
相殺の対象とする債権の発生根拠を、詳しく主張しなければいけません。
第2 被告の主張
1 相殺
(1) 原告の本訴請求権は、以下のとおり、被告の原告に対する損害賠償請求権との相殺により消滅した。
(2) 被告は、平成31年1月3日頃、原告から、旅行に行くため自動車を貸してほしいと頼まれたため、原告に対し、被告の所有する自動車を貸した。ところが、原告は、運転中に交通事故を起こし、同自動車を破損させた。同自動車の修理代は54万円だった(乙1)。
したがって、被告は、原告に対して、少なくとも金54万円の損害賠償請求権を有する。
(3) 被告は、平成31年2月10日、原告に対して、本件貸金と上記損害賠償請求権を対当額で相殺すると通知した(乙2)。
したがって、本件貸金はすべて消滅した。
前述の通り、不法行為による損害賠償請求権を受働債権とする相殺はできませんが、自ら自働債権として相殺の主張をすることは許されています。
免除の抗弁
債務が免除されたとの反論がなされることもあります。
当事者間の法的に曖昧なやりとりの言葉じりをとらえて、このような主張がなされることがあるのです。
このような場合には、免除をするような合理的な理由があるかどうかを検討することになります。免除したとも解釈しうるメールだけでなく、その前後のやりとりや事情を頼りに、それが免除の趣旨だったのかを認定するというのが、審理の基本的な流れになるでしょう。
消滅時効
消滅時効は、今後、改正民法が施行されると状況が変わりますが、現時点では、弁済期日から起算して、10年で消滅します。商事債権については、5年で消滅します。
商事債権とは、借りた人か、貸した人のどちらかが会社であったり、商人で商売のための借入だった場合に該当します。
消滅時効は、このような「時効期間」が経過したことと、時効を主張するという意思表示の存在が要件となります。
時効期間の起算点
時効期間が、5年か10年であったとして、いつから起算するのでしょうか
民法166条は、権利を行使できるときから起算すると定めています。
時効の起算点といいます。
貸金に関していえば、起算点は、弁済期日の到来したときからというのが原則となります。分割弁済の場合に、期限の利益を喪失したときは、期限の利益の喪失日が時効の起算点となります。
時効の中断
もっとも、債務者が債務承認をしたときは、時効は「中断」します。
中断とは、一時停止という意味ではなく、また最初から5年を数え始めます。
たとえば、債務の一部弁済は、基本的に、債務全額の債務承認をしたと考えられますので、一部でも弁済が続いている限りは、債務承認があったものとして、時効の心配をする必要はありません。
なお、支払がないのに、請求書を発送していれば、消滅時効の恐れがないと勘違いをしている場合がありますが、裁判外の催告は、6ヶ月間だけ時効を延長する効果はあるものの、催告の時から6ヶ月間何もしないで経過してしまうと消滅時効が完成しています。
時効を中断させるためには、債務承認をとるか、それができない場合は、訴訟や支払督促などを申し立てて裁判上の権利行使をする必要があるので注意が必要です。