訴額の計算は、弁護士でも意外と悩むときがあります。
まずは、基本的なパターンからご紹介します。
金銭支払請求の場合は単純
金銭の支払いを求める訴訟の訴額は、特に難しくはありません。利息や遅延損害金を除く、元金の合計額です。慰謝料でも請負代金でも同じです。
たとえば、平成30年1月10日に貸付けた200万円の借用証書があります。1年の平成31年1月10日に、当日までの利息10万円と、元金40万円は返済されましたが、それ以来返済がない、という場合。
請求の趣旨は、次のようになります。
1 被告は、原告に対し、金160万円及びこれに対する平成31年1月11日から支払済みまで、年5%の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行宣言を求める。
この場合の訴額は、160万円です。元金に対する利息は、付帯請求と呼ばれ、お金の支払を求めていますが、訴額には加算されないことになっています。
不動産関係訴訟
不動産の明渡を求める場合、少し計算が難しくなります。
算定方法は、目的物の価額の2分の1とされています。
この目的物の価額は、固定資産評価額をもとに算出しますが、土地については固定資産評価額の2分の1とされています。したがって、土地の明渡の場合、訴額は、結果的に、固定資産評価額の4分の1ということになるのです。
土地明渡訴訟の訴額 = 目的物の価格 × 1/2
目的物の価格(土地の場合) = 固定資産評価額 × 1/2
建物の場合は、目的物の価額は、固定資産評価額そのままです。そのため、建物の明渡の場合には、建物の固定資産評価額の2分の1が訴額となります。
建物明渡訴訟の訴額 = 目的物の価格 × 1/2
目的物の価格(建物の場合) = 固定資産評価額
建物の一室のみの明渡請求の場合
建物の全部ではなく、ワンフロアや一室のみの明渡しを求める場合は、建物全体の評価額から床面積に応じて算定します。たとえば、建物の総床面積が200㎡で、明け渡しを求める部分が50㎡のみのとき、建物全体の固定資産評価額が400万円ならば、訴額は100万円となります。
一室のみの床面積は、建物図面などで適宜計算します。壁芯なのか内法なのか、厳密に考える必要は実務的にはありません。というのは最終的な訴額としては、数千円程度の差なら、収入印紙の金額に影響しないことが多いからです。
建物の一室の建物明渡請求の場合、建物図面から手計算でも構いません。賃貸借契約書に面積の記載があり、そこそこ現況どおり正確ならば、その数字を使うのが良いでしょう。
建物の底地を評価額に加算する?
建物明渡訴訟の訴額の計算について、土地の評価額を訴額の算定で考慮する必要は通常ありません。ただし、同時に駐車場の明渡しを求める場合は、その限りで訴額に含めます。この場合も、全体の土地に対して、面積な応じた目的物の価額を計算します。
付帯請求は訴額に算入しません
不動産明渡訴訟の訴額については、もう一点注意事項があります。
それは、明渡と同時に滞納賃料や明渡完了までの賃料相当損害金を請求する場合、賃料などの請求は付帯請求として扱われ、訴額の算定に含めて計算しなくても良いことになっています。
たとえば、アパートの家賃を4ヶ月滞納した後、解除通知を発送して、契約解除の手続きをとった後、訴訟でアパートの立ち退きを求める場合、滞納していた4ヶ月分と解除成立の日までの賃料と、解除成立後の賃料相当損害金は、どちらの付帯請求となり、訴額には含まれません。
固定資産評価額とは?
固定資産評価額は、その不動産の所在地の市役所で取得することができます。賃貸している自分の所有する不動産であれば、これを取得するのは簡単です。通常は、市役所の税務の窓口で取得できます。これは、固定資産税の算定に用いるために存在しているからです。
これに対し、時には、被告の所有する不動産の明渡や登記手続きを求める裁判を起こすこともあります。このような場合は、弁護士等であれば、職権で証明書を取得できますが、本人訴訟の場合は、訴状などを用意して、訴訟のために裁判所に提出することを証明すれば、弁護士でなくても取得することができます。
貼用印紙額
印紙の金額の算定は、訴額に応じて決まります。 算定表は、裁判所HPにありますので、下記リンクからご確認ください。
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/315004.pdf