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敷金返還請求訴訟

建具(ドア、引き戸、ふすま)などの原状回復に関する裁判例

投稿日:8月 14, 2020 更新日:

建具とは、ドアや引き戸などの部材です。鋼製の窓などの建具は、サッシと呼ばれたりします。ガイドラインでは、柱も同じカテゴリーで分類しています。ガイドラインでは、これらの部材は、建物の存続中、長期間使用されるものであることから、基本的に耐用年数を考慮せず、賃借人の負担額を決定するものとされています。

襖紙の張り替えの場合も、消耗品であるとの理由で、耐用年数は考慮しないこととなっています。

襖の補修方法の問題。表面の張り替えで補修ができる場合と、下地や骨組みまで損傷していて交換や下地の補修が必要な場合があります。裁判でもこのような補修方法の問題が論点となる場合があります。

襖紙の張り替えをする際、色合わせで他のふすまの張り替えを同時に行う場合、基本は、損傷させた建具ごとに1枚単位で賃借人の負担部分が決められています。

(1)
襖や引き戸などの補修の方法、耐用年数が主張された例

裁判年月日 令和元年11月15日 裁判所名 東京地裁

本事例は、襖や引き戸などの損傷が問題となったものです。

賃借人がドア及び引き戸に穴をあけたことは認めるとしながら、次のように、争いました。

仮に,賃借人に何らかの原状回復義務があるとしても,建具の退去時の経過年数を考慮した減価償却後の残存価値3万2079円を補償することで足りる。さらに,仮に何らかの修繕が必要であると解した場合でも,ふすま以外の建具の穴については,当該損傷面について,下地材を接着し,パテにて表面を平らに補修した上で,ダイノックシートを貼り付けるという方法による修繕で足りる。また,和室入口の戸ぶすまについては,骨組みには一切の損傷がないから,ふすま紙の貼替のみで足りる。

裁判所は、次のように判断して、戸ぶすまは、骨組みまで損傷していないので、ふすま紙の張り替えによるべきとし、それ以外の建具については、交換ではなく、パテ補修、ダイノックシート貼りによるべきとの賃借人の主張は認めませんでした。

本件建物には,和室内のふすまに2か所,洋室の壁に3か所,和室の壁に1か所,和室入口の戸ぶすまに1か所,中部屋入口の引き戸に2か所,トイレの扉に1か所,洗面所の扉に1か所の損傷があり,これらについて原状回復工事が必要であることが認められる。ただし,和室入口の戸ぶすまについては,ふすま紙に穴が空き,貼替えを要することは容易に認められるものの,骨組みの交換を要するほどの損傷であったことを認めるに足りる証拠はない。
そして,和室入口の戸ぶすまを除く建具の毀損については,これを補修するよりも新たに作成したほうが低額であるから,これを新たに作成する方法による工事代金を採用することが相当であると認められる。他方,和室入口の戸ぶすまについては,賃借人が知人に作成を依頼した修繕工事の見積書によれば,貼替えのみであれば5000円で足りたものと認めることができる。
次に,賃借人は,ふすま以外の建具については,穴の空いた部分に下地材を接着し,パテで表面を平らにした上,ダイノックシートを貼り付けるとの方法があるとも主張するが,証人は、ダイノックシートによる修繕方法では,建具の片面が全く異なった見た目になってしまうから,原状回復工事として不十分である旨の証言しているところ,同証言は合理的であるから,賃借人の主張を採用することはできない。

賃借人は、建具の耐用年数を考慮した残存価値を保証すれば足りるとの主張もしていましたが、裁判所はこれを認めませんでした。
ガイドラインでも、建具については、基本的に、耐用年数の経過を考慮しないものとしています。

(2)
脱衣所のドアの破損について賃借人に交換費用の一部の負担が認められた事例

裁判年月日 平成28年12月20日 裁判所名 東京地裁

裁判所認定した破損の状況は、次のようなものでした。

脱衣室入口ドアの下部部材の6個のうち4個が脱落していたこと及び同ドアの下部に破損があることが認められる。

このような場合について、裁判所は、次のように判断しました。

同ドアの交換には,少なくとも2万9000円程度の費用がかかることが認められ,上記費用のうち2万2000円(税抜)を原状回復義務の不履行に基づく原状回復費用として認めることは相当であるというべきである。

(3)
襖の張り替え費用について賃借人の濃い過失による汚損がある部分のみの負担を認めた事例
ガラス戸のひび割れについて、賃借人の故意過失を認めなかった事例

裁判年月日 平成28年 8月19日 裁判所名 東京地裁

ガイドラインでは、襖紙や障子紙は、消耗品であることから耐用年数による減価償却をしないとしています。また、色合わせなどのために居室全体の枚数の施工をおこなう場合があるとしても、賃借人の負担は1枚単位としています。

本事例は、賃貸人が複数箇所の補修費用を主張しましたが、裁判所は、次のように賃借人の故意過失の認められる枚数のみを賃借人の負担としました。

襖については,賃借人が責任を自認する和室間仕切りの襖及び押し入れ襖各1枚を除き,賃借人の故意過失により損耗したことを認めるに足りる証拠がない。したがって,賃借人が原状回復費用を負担すべきなのは上記2枚についてであり,証拠によれば,その金額の合計は2万0800円である。

また、本事例では、ガラス戸のひび割れについても、賃貸人は原状回復費用の控除を主張していましたが、裁判所は次のような判断をして、これを認めませんでした。網入りガラスについて、熱膨張によるひび割れである可能性を考慮して賃借人の負担としなかった裁判例としては、東京地裁平成28年5月13日判決があります。

賃借人が本件居室を明け渡した際,ベランダに面するガラスにはひびが入っていたことが認められる。この点,証拠によれば,上記ガラスのような鉄線入りのガラスは,鉄線が熱やさびによって膨張することにより,ひびが入ることがあると認められるところ,本件居室のガラスの割れ方は,1点に外力が加わったようなものではなく,また,賃借人が何らかの外力を加えたことをうかがわせる証拠もないことからすると,上記のひびが賃借人の故意過失により生じたものであると認めることはできない。

(4)
クローゼットの扉について賃借人の負担額を認定した事例

裁判年月日 平成28年 9月 1日 裁判所名 東京地裁

ガイドラインでは、クローゼットについて耐用年数などの解説はありませんが、建物に固着する備え付けで製作された家具については、長期間の使用が予定されており、短期間での減価償却はされない建具などと同様に考えることが可能です。
本事例においても、裁判所は、クローゼットの扉について、部分補修は不可能とした上で全体の交換の費用を認定しましたが、耐用年数を考慮しませんでした。

賃貸人は、8枚の扉で構成されているクローゼットの扉の全部の交換費用を主張していましたが、裁判所は、そのうち、取替を要するのは落書きや陥没、擦過傷、歪みなどの認められる4枚であるとして、賃貸人の主張額の半分についてのみ負担を認めました。

本件建物の奥洋間のクローゼットの扉(鉄製8枚折れ戸。以下「本件クローゼット扉」という。)に、部分的な陥没やゆがみが生じており、筆記用具による落書き様の汚損や擦過傷が広範囲にわたって存在する。
賃借人は、本件クローゼット扉に陥没が生じたことが賃借人の過失によることを争わない。また、落書き様の汚損は筆記具で印象したことによって、擦過傷は先の尖った金属等の硬質の物体を押しつけて擦過したことによって、それぞれ生じたものと推認されるところ、このような損耗は通常の使用で生じる範囲を超えているといえるのであり、これらについても、賃借人の故意又は過失によって生じた特別損耗であると認めるのが相当である。
そして、本件クローゼット扉に生じている陥没やゆがみの程度、落書き様の汚損及び擦過傷が生じている範囲等に照らせば、部分的な修理が可能であるとは考え難いから、同扉の原状回復として取替え工事を行うことは相当である。
もっとも、本件クローゼット扉は鉄製の8枚の戸から構成される折れ戸であるところ、取替えを要するような損耗のない戸も存在することに照らせば、賃貸人の主張する扉8枚分の取替え費用を全て賃借人に負担させるのは相当ではない。明らかな損耗が認められる扉は、①ゆがみ及び陥没が認められる左から4枚目の扉、②落書き様の汚損及び擦過傷が認められる左から5枚目の扉、③落書き様の汚損及び擦過傷が認められる左から6枚目の扉及び④扉のゆがみにより右端の壁との間に大きな隙間を生じている左から8枚目の扉の計4枚であるから、8枚全ての交換に要する費用として賃貸人が主張する31万1000円のうち、半分に相当する15万5500円に限り、賃借人が負うべき相当な原状回復費用である。

その他の補修部位別の裁判例
 (1)ハウスクリーニング特約
 (2)壁、クロス
 (3)床、フローリング、クッションフロア、畳
 (4)建具、ドア、襖、窓など
 (5)キッチン、ユニットバス

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