請求の原因(紛争の要点)
請求の原因としては、裁判を起こすに至った理由や請求権の根拠となる事実関係の主張を記載します。
現在どんな状況であるかを裁判官に分かってもらうためには、自分が言いたいことや、相手の悪質性を記載するのではなく、客観的な事実を簡潔に記載する必要があります。原状回復ガイドラインの内容や法律論は、裁判官が十分ご存じですから、当事者が第一に主張すべきは事実関係です。
敷金返還請求の請求原因として記載すべき事項は、以下の3点です。
① 賃貸借契約の締結に際して敷金を差し入れたこと
② 賃貸借契約が終了して
③ 賃貸物件の明渡を完了したこと
裁判所の公開している訴状のひな形は、この請求原因事実を穴埋め式に記入できるようになっています。
具体的な請求原因の記載例は、以下のとおりです。
この請求原因は、訴状書式と同じものなので、ダウンロードしていただくとそのまま使えます(ワードファイルの訴状書式)。
1 原告は、被告との間で、以下のとおり、賃貸借契約を締結した。
(1) 物 件 A市B町2-3-4 ○○マンション 111号室
(2) 契約日 平成27年3月10日
(3) 賃貸期間 平成27年3月28日 から 2年間
(4) 賃 料 金70,000円(月額)
(5) 共益費 金5,000円(月額)
(6) 敷 金 金200,000円
2 賃貸借契約終了日 令和2年5月31日
3 退去日 令和2年5月31日
訴状に記載すべき請求原因は、最低限の記載されていれば、訴状が却下されることはありません。その最低限の記載というのが、上記の①から③に該当する事実です。
もっとも、実務的には、効率的な審理を行うために、その他の事情の記載も求められます。
敷金返還請求事件の場合、たとえば、交渉経過や、原状回復で問題になっているポイント、敷金の返還に関する特約の有無などを記載することが適切です。
裁判所の公開している訴状の書式でも、次のような記入項目があります。
「敷金返還についての約定」の項目の記載
契約書があれば、敷金に関する規定があるのが普通です。一字一句、契約書の通り記載する必要はありませんが、次の2点について定めがあれば、記載しましょう。
① 返還時期の規定があるか。
② 敷金から一定金額を控除する規定があるか。
たとえば、次の記載例のように記載します。(このような規定があったとしても、それが有効であるかどうかは、別の問題です。)
☑ 明渡後、遅滞なく返還するという規定があります。
☑ 入居期間に応じて、敷金の10%から30%を控除するという規定があります。
☑ ハウスクリーニング費用として20,000円を敷金から控除するという規定があります。
「その他の参考事項」の項目の記載例
裁判所の訴状のひな形には、「その他の参考事項」という欄があります。
この部分には、交渉経過や原状回復に関する論点を記載しましょう。
記載例としては、以下のようになります。
「被告から添付資料3の敷金の精算書が届きました。それによれば、クロスの貼替え費用について、8万円とされていますが、汚れがあるのは1カ所のみで、その一面の張り替え費用としては、高額すぎます。また、入居してから5年が経過しており、クロスの耐用年数を考慮すべきです。事前の交渉で、このように主張しましたが、応じてもらえませんでした。」
「被告から添付資料3の敷金の精算書が届きました。それによれば、室内、浴室、トイレのクリーニング代、鍵の交換費用が差し引かれていますが、鍵は紛失もなく返還しており、退去の際に清掃をしましたので、クリーニング代が差し引かれるのは納得ができません。事前の交渉でこのように主張しましたが、被告は、半額の負担を提案してきましたが、納得できませんので、申し立てをします。」
「被告から添付資料3の敷金の精算書が届きました。クロスの張り替え費用として4万円、畳の表替えの費用として5万円が差し引かれています。しかし、壁紙も畳も目立った汚れはありません。原状回復のガイドラインでは、このような費用は貸主の負担とされていますので、控除されることに納得いきません。」
「被告から送付された敷金の精算書(添付資料3)には、ハウスクリーニング費用が差し引かれています。しかし、退去前に室内の清掃をしており、特別汚れを残したということはありません。契約書の特約にはハウスクリーニング費用を賃借人の負担とする規定がありますが、契約の際には何も説明はなく、賃借人が負担を負う場合や範囲が明確に定められておらず、無効であると思いますので、差し引かれることに納得できません。」
添付書類
下記のように、簡易裁判所用に裁判所が公開している訴状のひな形では、添付書類という項目があります。何を提出すべきでしょうか。ちなみに、この書式では、簡略的に添付書類という言い方をしていますが、これは、証拠や附属書類のことを指します。
裁判所の書式では、このようにいくつかの典型的な証拠が、予め印字されてチェック式になっていますが、これらに限定されているわけではありません。当日に持参することでも証拠として提出することは可能ですが、事前に、裁判官が検討することができるように、提出予定としているものがあれば、訴状提出時に添付しておく方が良いです。
証拠
敷金返還請求訴訟で提出すべき証拠としては、
賃貸借契約書、入居時の物件状況・原状回復チェックリスト、退去届け(控え)、敷金の精算書、写真、参考になる文献のコピーやウェブサイトの印刷物などが考えられます。もちろん、ケースバイケースで存在しないものや提出が不要なものもあります。
1 賃貸借契約書
敷金の金額や償却(敷引き)の特約の有無、原状回復に関する合意の有無などの確認のために必要な証拠です。その他、物件の種類(住宅、事務所など)、広さ、賃貸期間などの確認にも必要です。
2 入居時の物件状況・原状回復リスト
賃借人の原状回復義務は、入居時点で既に存在した損傷を補修する必要はありません。ですが、もともと存在した損傷かどうかで、言い分が食い違ってしまうことがあります。このような争いが生じないように、ガイドラインでは、入居時に確認を行い、リストを作成することを推奨しています。これが作成されている場合は、証拠として提出しましょう。
3 退去届、解約届
賃貸借契約は、多くの場合、1ヶ月前に通知することによって契約を終了させます。この通知を、解約申し入れといいますが、退去届や解約届などという書類で作成されることもあります。これによって、いつ賃貸借契約が終了したのか、いつまでの賃料が発生するのか、賃料の未払いの問題がないかということがわかります。
4 敷金精算書、見積書
賃貸借契約が解除されて、賃借人が退去すると、賃貸人側から敷金から控除する金額の明細を記載した精算書が送付されるのが通常です。裁判所に、まず当事者がどのような主張をしているのかを知ってもらうために、敷金精算書や原状回復工事の内容や金額の記載された見積書などは、証拠として提出をしましょう。
付属書類としては、被告や原告が会社である場合、その法人登記の現在事項証明書や履歴事項証明書を提出します。
付属書類
付属書類とは、訴状に添付することが求められる書類で、例えば、建物の明け渡しを求めるような訴状の場合、不動産登記の登記事項証明書(登記簿藤本)や固定資産評価証明書などが必要となります。
敷金返還請求事件の場合は、賃貸物件の不動産登記の登記事項証明書や、固定資産評価証明書の提出は不要です。
もちろん、建物の築年数などの証拠として提出したい場合は、提出することも可能ですが、これは証拠として提出するもので、付属書類として提出するわけではありません。
敷金返還請求訴訟で必要となる付属書類は、証拠の写しの他には、相手や自分が会社である場合に、その法人の登記事項証明書(履歴事項全部証明書、現在事項全部証明書など)が必要となります。
訴状の提出部数や綴じ方など 具体的な提出方法
敷金返還請求訴状の作成方法 その1
補修部位別の裁判例
(1)ハウスクリーニング特約
(2)壁、クロス
(3)床、フローリング、クッションフロア、畳
(4)建具、ドア、襖、窓など
(5)キッチン、ユニットバス